June 2018
高電圧の実験
そんな僕たちを尻目に、彼は平気でコイルの近くに指をかざし、指先に集まる稲妻を楽しむかのように微笑んでいた。テスラ・コイルだった。交流を発明した旧ユーゴスラビアの天才科学者、ニコラ・テスラが考案した高電圧発生装置だ。 このコイルは単なる高電圧装置ではなく、共振を利用してエネルギーを空間伝播するという彼の研究テーマを、実に簡単な仕掛けで具現化したものだ。 ニコラ・テスラは、天才 [...]
ホストファミリーとの再会
カラマズー大学での1年間の交換留学を勝ち取った僕は、夢と希望に満ち溢れていた。 前回の留学では、受け入れてくれたコミュニティやホストファミリーにお世話になっているということで、様々な場面で遠慮があった。でも今回は完全に自由だ。自分で生活費(実際は父が支援してくれた)も支払い、足りない分はキャンパスでのアルバイトで賄うつもりだ。誰とどう付き合おうと、誰にも文句を言われない。 日本の狭いアパートを引き [...]
November 2018
国際学部の交換留学制度
そんな大学生活を半年ほど続けながら、得るものは何もないと感じていた僕は、国際学部の留学制度に応募した。 この大学では、米国五大湖周辺の5つの大学と提携関係にあって、互いに留学生を受け入れ合ったり単位の交換ができるような制度があった。アメリカの学生を毎年数名受け入れる代わりに、日本からも若干名、これらの大学に送り込む。 試験が大好きな僕は、さっそくこれに応募して、パスした。 日本で4年間、退屈な大学 [...]
コンクリート・ジャングル
緑茂る広大なキャンパスをファッショナブルな男女学生たちが行き交い、サークル活動に青春を燃やし、学園祭の時には恋が芽生え、大学周辺のカフェでは活発に議論を戦わせる・・・ そんな学生生活を想像していた僕は、ある重要な事実を見落としていた。 この大学の理工学部は、メインキャンパスから30分以上離れた別の場所に存在するということだ。 文学部の講堂で行われた入学式が終わったあと、30分歩い [...]
大学入試
受験勉強においても、英語は全く勉強する必要が無かったので、その時間を他の科目の勉強に充てた。 物理はもともと興味があり、推論で回答できる場合が多かったのであまり苦労しなかった。ところが化学は丸暗記せねばならぬことが多く、苦手だった。学校のテストでも毎回30点程度で、理工系に進もうと考えていた僕には致命傷だった。そこで、化学にターゲットを絞り、猛勉強した。 暗記が苦手と言っても、手始めに「水兵リーベ [...]
偏った学力
英語は全く心配なかったが、僕の学力はかなり偏っていた。 人間関係に興味がない僕は、社会科が超苦手だ。論理的な因果関係のない事象は全く頭に残らない。小学校の頃から、りんごやみかんがどこで採れようが興味なかったし、行きたくもない国の首都の名前とか、昔の人がああしたこうしたとか、なぜこんなに皆、ゴシップが好きなんだろうと不思議に思っていた。 一方、小学校5年の時に、たまたま [...]
大学志望
やがて、母がその先生に呼び出された。このままの髪型を続ける限り、志望校への推薦状を書かないという。 僕は国立大志望だった。留学は公費であったものの、ホストファミリーに対するお礼などで父に経済的負担もかけたし、できるだけ安く早く大学を卒業して、経済的に自立したかった。ただし、行くならば東京の大学と決めていた。2年前に姉が上京していろいろ情報が入ってきていた。東京には何かがある、僕は漠然とそう考えてい [...]
生活指導の先生
地元の進学校に戻った僕は、カルチャーギャップに苦しんだ。1年前にアメリカでカルチャーギャップに苦しみ、再びここでまた苦しむとは、我ながらなんと波乱万丈な人生だと苦笑した。 僕の不幸は、高校3年のクラスの担任が、生活指導の先生だったことだ。 行きつけの床屋で1ミリ単位できれいに刈り上げられた髪のトップは7・3に分け、父がつけていたポマードの匂いをプンプンさせながら彼は言った: 「物事には節度がある」 [...]
家族との再会
久々の羽田空港はどんよりとした曇り空だったが、父母と姉が今か今かと僕の到着を待っていてくれた。 税関のドアが開いて家族の姿を見つけた時は、この上ないやすらぎを感じた。ところが、再会を喜ぶ父母に話しかけたところ、父は呆気に取られた様子で「なに言っているのかわからん」と答えた。 無意識に英語で話しかけていたのだ。留学中一度も日本語を話さなかった僕は、完全に英語で思考するよう [...]
October 2018
ワシントンDCに集結
バストリップを終えたAFS留学生たちは、帰国便に乗るためにワシントンDCに集結した。ここで各国ごとにひとつのバスに乗り込み、帰りのフライトに合わせて飛行場へと旅立つ。 全米に散らばっていた各国の留学生が集い、方々で再会を喜び合っている。まるでロックコンサートでも開かれるかのような賑わいだった。 気の合った者同士があちこちで輪になり、John Denver の Leaving On A Jet Pl [...]
バス・トリップ
僕にとって最高の思い出が、他国の留学生たちと1ヶ月間行動を共にしながら各州の高校を訪ね歩くバス・トリップだ。 前に述べた「AFSウィークエンド」の長期豪華版で、バスという団体行動に便利な移動手段があり、卒業後のたっぷりとした時間を使えるのがいい。しかも様々な国から来た留学生たちと1ヶ月も行動を共にするのだ。 文化交流を目的としたこの巡業旅行では、昼間はバス移動とピクニック、到着先の高校で自国文化に [...]
プロム
卒業式が近づくと、年間を通じて最大のイベントである プロム が開催される。 アメリカやカナダの高校で学年の最後に開かれるダンスパーティで、高校生にとっては初めての華やかでフォーマルな場であり、非常に重要なイベントとなる。 タキシードやドレスで正装し、男性は女性を自宅からエスコートし、飲んだり食べたりしながらライブ音楽とダンスを楽しみ、最後にキングとクイーンが選ばれる。いわゆる「大人の真似事」をする [...]