久々の羽田空港はどんよりとした曇り空だったが、父母と姉が今か今かと僕の到着を待っていてくれた。

税関のドアが開いて家族の姿を見つけた時は、この上ないやすらぎを感じた。ところが、再会を喜ぶ父母に話しかけたところ、父は呆気に取られた様子で「なに言っているのかわからん」と答えた。

無意識に英語で話しかけていたのだ。留学中一度も日本語を話さなかった僕は、完全に英語で思考するようになっていた。3年前に同じ経験をしている姉はさすがに状況を即座に理解し、僕と父母との通訳になってくれた。僕と姉は英語で会話し、その内容を父母に伝えてくれたのだ。

両親も姉も小柄な方だが、この時ほど周りの人々が「小さく」感じたことはなかった。妙に遠くまで見渡せるし、話しかける時も少し見下ろすような感じになる。まるで自分が大きくなったような錯覚に陥った。

渡米した時のカルチャーショックとは逆に、生まれ育った環境に舞い戻るのはとても心地良く、あっという間に一年前の生活に慣れた。同級生たちは既に大学に進学しており、夏休みに帰省している友人たちと集まっては、カフェで談笑した。

ただ何を訊いても、「考えとく」とか「今度また」とか、どことなく曖昧な受け答えが多い。声も小さく覇気もないのが気になった。こんな人付き合いをしていて楽しいんだろうかと思いながら、僕は夏休みが終わった後の高校生活のことばかり考えていた。

渡米前はずっと先のことと気楽に考えていた大学入試。地獄の受験勉強にいよいよ本腰を入れねばと思うと、憂鬱な気分になった。