March 2020
ミッチェル教授との出会い
ボストンの街並みは、広大なアメリカのイメージとは真逆で、僕は気が滅入ってしまった。そんな気分を高揚させてくれたのが、ハーバードの建築大学院に新設されたデザイン専攻科の修士候補として僕を受け入れてくれた、ウィリアム・ミッチェル教授との出会いだった。 アポイント時刻きっかりに研究室に現れた僕を、彼は満面の笑みで迎えてくれた。僕のこれまでのキャリア、興味のある研究テーマ、将来の進路などについて簡単な質問 [...]
April 2019
ここはアメリカ?
ボストンの夏は異常に蒸し暑い。汗だくになりながら、大学から紹介されたコンクリートの高層アパートに入居した僕は、この街の独特な雰囲気に少々面食らった。 ちっぽけなコンビニ、うさぎ小屋のようなアパート、妙に凝った(だがまずい)料理、アメリカには存在しないと思っていたゴキブリ、両脇にびっしりと車が駐車した狭い道路・・・ カリフォルニアや中西部のカルチャーになじんでいた僕は、ここはアメリカではない、と感じ [...]
マウイ島で過ごした三週間
マウイ島での3週間は最高だった。午前中はスキューバダイビング、午後はウィンドサーフィンに明け暮れた。 ダイビングは、早朝からのレッスンを毎日2回こなす必要があり、それだけでもかなり体力を消耗した。夜は教科書(もちろん英語!)を読み、筆記試験に備える必要もあった。ダイビングのインストラクターはもとウィンドサーファーで、より「頭を使う」からという理由でダイビングに転向したそうだ。 3~4人のメンバーか [...]
March 2019
スタンフォードのサマースクール
空港の外に出た僕は、マリオット・ホテルからの送迎バスを待った。フライトの疲れを癒すため、スタンフォード大学に向かう前にホテルのプールで泳ぎ、そのまま一泊する予定にしていた。 市内観光の時間もたっぷりあったが、サンフランシスコには興味が無かった。見たいものはもう何もない。学生時代にアメリカで1年を過ごした後の夏休みを利用して、さんざん見て回ったからだ。 翌朝、僕はスタンフォード大学に向かった。企業派 [...]
ぎりぎりのチェックイン
6月30日。出発の日だ。 海外に行く時はいつもそうだが、時間ぎりぎりにチェックインするのが僕の悪い癖だ。出国審査の長い列に謝りながら割り込み、航空会社の女性に大声で緊急事態を宣告し、そのままゲートまで一緒に走ることが多い。 途中、トランシーバでゲートの係員まで状況報告をしてくれる彼女たちを見ると、つくづくこの国に生まれて幸せだったと思う。呆れた顔で僕を眺める空港職員を尻目にゲートくぐり、飛行機のド [...]
波打ち際のシャッター音
それからは慌しい毎日だったが、アパートを引き払い、大量の荷物を船便で送り、なんとか準備も整った。 当時、ウィンドサーフィンに夢中になっていた僕は、渡航前日の6月29日の土曜日、湘南の材木座にいた。日本ともしばらくお別れだ。2台のボードを引き取ってくれる友人を艇庫のご夫婦に紹介し、僕は材木座を名残惜しむように海に出た。 材木座の潮の香りは、忙しい日々で疲れきった僕の心身を癒してくれた。 思えば10ヶ [...]
思いがけないチャンス
就職先の企業は、銀行などの基幹系システムを中心とした大型コンピュータの最大手だった。給料をもらいながらコンピュータのことを一から教えてくれるということで、とりあえずは3年頑張ってみようという軽い気持ちで入社したが、現実は想像以上に大変だった。 入社してから1年半は、営業所に出向しながら一週間交代で過密な研修スケジュールをこなす。最後は総仕上げとして、合宿型式で入社研修の「卒業試験」を受けることにな [...]
帰国・復学、そして就職
アメリカの大学生活と大陸横断旅行の思い出を胸に、僕は帰国の途についた。日本に到着してからは、まず実家の両親のもとでしばらく過ごし、夏休みが終わるまでの数週間を、アパート探しと生活基盤の整備に費やした。 9月になると学校が始まったが、そこには案の定、暗くて退屈な大学生活が待っていた。退屈なだけだったらまだいいが、猫の手も借りたいほど忙しい。なぜなら、僕には特殊な事情があったからだ。 僕は大学1年生の [...]
サンフランシスコを徘徊
グレイハウンド・バスによる移動は、むしろヒッチハイクよりも危険かも知れない。バスに乗っているときはいいのだが、都会のバスターミナルに到着して次のバスを待つ間が、一番緊張する。 小さな都市の場合はまだましだが、ロサンゼルスのような大都会になると、スラム街に隣接したダウンタウンのど真ん中にバスターミナルがあったりする。そんなところで一夜を過ごすなど、まっぴらご免だ。 幸い、グランドキャニオンからサンフ [...]
グランド・キャニオン
こうしてアメリカでの最後の目的地、グランド・キャニオンに到着した。 幼年期の地形を代表するこの観光スポットは、その雄大さにおいて他を圧倒する。 遠目では見渡す限りのフラットな大地は、膨大な年月にわたる侵食によって深くえぐられ、赤茶けた縞模様の岩肌を見せながら深い谷底へと落ち込んでいく。 約7000万年前、地殻変動によって隆起したこの広大な土地が、コロラド川の浸食によって最深1800メートルもの深さ [...]
アメリカン・スピリット
フリーウェイでのヒッチハイクは、想像以上に大変だった。 普通の乗用車は、ほぼ十中八九、何も見なかったかのようにそのまま通り過ぎていく。このまま永久に拾えないのではないかと思ったことは何度もある。 2時間ぐらい経ったろうか。汚れた軽トラックが僕の脇でスピードを緩め、少し先に行ったところで停車した。僕はドライバーの姿を用心深く観察しながら近寄って、ウィンドウから顔を出したヒゲ面の男性に声を掛けた。 僕 [...]
February 2019
ヒッチハイク
バイオレンスの国アメリカでヒッチハイクをするとは、なんとも無謀な話だが、それしか選択肢はなかった。 かつてのアメリカではヒッピー文化の影響もあり、ヒッチハイクで気軽に旅行する人はかなり多かった。ところがヒッチハイクに起因した多くの事件が報告されてから、誰もが警戒心を抱くようになり、停まってくれる車は激減してしまった。 ドライバー側からすると、信頼できる相手かどうかを一瞬で判断する必要があるので、服 [...]