フリーウェイでのヒッチハイクは、想像以上に大変だった。
普通の乗用車は、ほぼ十中八九、何も見なかったかのようにそのまま通り過ぎていく。このまま永久に拾えないのではないかと思ったことは何度もある。
2時間ぐらい経ったろうか。汚れた軽トラックが僕の脇でスピードを緩め、少し先に行ったところで停車した。僕はドライバーの姿を用心深く観察しながら近寄って、ウィンドウから顔を出したヒゲ面の男性に声を掛けた。
僕: Hey, thanks! (ありがとう!)
男: I’m getting off at Monterey. Would that be OK? (モントレーまでだけど、それでもいいかい?)
僕: Sounds perfect! (完璧だよ)
男: All right. Get in! (よし、乗りな!)
目的地を書いた段ボールと指のサインで意図は明確なので、話しは早い。いつもだいたいこんな調子だ。
助手席に回って乗り込んだ僕は、ドライバーの脇に大きな犬が横たわっているのに驚いた。ただし僕を見ても吠えたりせず、顔をペロペロ舐めようとする。ずいぶんおとなしいワンちゃんだ。
驚いた顔の僕を見て、ヒゲの男はその犬のことから話し始めた。少し前に離婚したばかりで淋しくて犬を飼い始めたことや、地元でエアコンの設置を請け負う仕事をしていることや、今日はモントレーまで部品を仕入れに行く途中で、ついでに帰りに水族館を見てくるつもりだなど、話しは多岐にわたった。
ワンちゃんと一緒ならば寂しさはまぎれるが、きっと話し相手が欲しかったのだろう。
モントレーの出口が近づいてきたので、ヒゲの男にお礼を言い、僕はそこでクルマを降りた。まだ日は高い。もう少し先まで行けるはずだ。
僕は実に幸運だった。危険な目に遭うこともなく、素晴らしい人々と出会い、助け合いながら逞しく生きていくことが生活習慣として根付いたアメリカン・スピリットを体験した。
一路、南へ・・・ カリフォルニアの恵まれた気候の中を、様々なクラスの人々と会話を楽しみながら、僕はヒッチハイクを続けた。
友人達と再び合流したサンタバーバラでは、僕を車に乗せてくれた青年が、両親の所有だという広大なリゾート・マンションに全員を泊めてくれた。
サンタバーバラは、裕福な人々が住む高級住宅街として有名だ。俗に「パーティー・スクール」と呼ばれているカリフォルニア大学サンタバーバラ校(U. C. Santa Barbara)はその海岸沿いに位置し、確か物理学では全米ナンバーワンにランキングされている。ゴージャスなキャンパスと学業のレベルの高さから、誰もが憧れる大学との評判が高い。
町並みも見事だ。スペイン風の建築が見え隠れする丘のすぐ横にヤシの木をたたえた美しい海岸が広がり、ビーチバレーを楽しむ若者たちの姿が夕日に映える情景は、今も目の奥に焼きついている。
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