さて、ここから先の旅が大変だ。
車さえあれば5ドルぐらい払ってキャンプ場に停め、寝袋で野宿すれば極めて安上がりだ。シャワーも完備されている。実際、ミシガン州から西海岸までは、そうやって旅をしてきた。
ところが車が無いとなれば、話しは全く別だ。どんなに安ホテルに泊まっても、数十ドルは吹っ飛ぶ。移動にもお金がかかる。飛行機は高すぎて手が届かないので、鉄道が発達していないアメリカでは、グレイハウンドのバスしか選択肢がない。
アメリカではクルマは必需品だ。クルマが無い人の多くは、ダウンタウンのアパートに住んでいることが多く、その多くはスラム化している。グレイハウンドのバスは、そんな低所得層の人々をターゲットにした交通手段なので、飛行機とは客層が全く違う。
まずバス・ターミナルの雰囲気が最悪だ。都市のど真ん中の一番古い場所にあるのが普通で、僕はデトロイトやロサンゼルスなどの大都市の停留所で乗り降りしたことがあるが、一瞬の油断も許されない。得体の知れない連中がゴロゴロしていて、荷物から目を離した途端に奪われそうで、終始びくびくしていた。トイレに行く時も荷物を全部持って行くわけだが、アメリカのトイレでは下半分が丸見えなので、それはそれで不安だ。
バス・ターミナルの外に出ると、辺りにはポルノ映画館や怪しげなバーがひしめき合い、ポン引きのお兄さんたちがひっきりなしに声をかけてくる。大きなスーツケースでも持っていようものなら、金持ちとのレッテルを貼られ、彼らの格好の餌食となる。
交通手段、宿泊費、食費・・・ これらを十分に計算した上で、今後の計画を立てる必要がある。僕は宿泊代を節約するためにコーヒーショップで一夜を明かし、とにかくサンフランシスコを出ることにした。危険な都会を脱出すれば、テントと寝袋さえあれば何とかなるはずだ。
僕はどうしてもグランドキャニオンを見たかったので、アリゾナ州までの旅費を調べた。残念ながら、往復のバス代は残っていなかった。しばらく考えあぐねた僕は、必然的な結論に辿り着いた。
ヒッチハイクしかない!
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