December 2018
あっけない下山と贅沢
登頂までの不安と緊張に比較して、下山はあっけない。山頂付近では滑落しないように細心の注意を払いながら降りて行ったが、雪が無くなるあたりから次第にペースは速くなり、足元が岩と火山灰で埋まるようになってくると、ざっ、ざっ、とリズミカルな音を立てながら斜面を一気に駆け下りるような感じだ。 ベースキャンプに集合した僕たちは、全員で登頂の喜びを分かち合った。僕たちの帰還を心 [...]
山頂アタック
足元に集中し過ぎて呼吸が荒くなった時には、焦らずにペースを落とす。途中で休憩を入れるのではなく、できるだけ一定のペースで淡々と歩き続ける方が、疲れを軽減してくれる。 あたりを見回すと、快晴の空に白い雲が幾重にも重なり、山の斜面と40度近い角度をつくっている。いつしか足元は急斜面の氷の壁となっており、踏み外したら命は無い。 ロープでお互いを結び合っているとは言え、誰か一人でも滑落したら、全員がその巻 [...]
登頂の日
登頂の日、朝4時。第一グループが出発した。数日前からの晴天は、この日もまだ続いていた。 登頂の成否は自然に大きく左右される。リスクを分散するために2つのグループに分け、時間をずらして別ルートで登頂を試みる計画だった。いずれにしても、天候の 安定している午前中に山頂アタックする必要がある。 6時ぐらいになって僕たちの第二グループが準備を始めた頃、第一グループがひど [...]
滑落に備えた訓練
ハイキングの最終日、僕たちはベースキャンプを Mt. Popocatapetel の赤茶けた斜面の中腹に移した。そして近辺の地形調査をしながら、翌日の登頂の訓練を行うことにした。 4000 メートルを超える辺りから氷雪の斜面となるため、滑落の危険性が高い。突起や樹木がほとんどない火山では、いったん滑り始めると途中で自然停止することなどは期待できないからだ。整地されたスキー場ならば、途中でコブに引っ [...]
大自然に包まれて
最初は、トイレも、シャワーも、マットレスも、まともな食事も無い毎日が途方も無く心細く思えたが、不思議なことに、3日目ぐらいからは慣れるものだ。お洒落や美食は都会にいるから必要なのであって、生きていく分には全く関係ない。最も大切なことは自分の体調管理で、十分な水分をとり身体の異変に敏感に対処していくことが自己責任として課せられた。 大自然の中で、自分の装備以外は何も頼ることができないというのは独特の [...]
高度順応
翌朝、全員がひどい頭痛と吐き気に襲われた。高山病とまではいかないが、眠っている間はまだ高度に慣れていない身体が通常のペースで呼吸するため、酸素不足となってしまうからだ。 リーダーのダグがしきりに「動け」と指示している。運動をすることによって呼吸ペースを上げ酸素を取り込むと同時に、身体にペースを覚えこませるためだ。付近を30分ほど歩き回っているうちに頭痛は消え、吐き気も無くなった。 海抜 5,500 [...]
高度3000メートルへ
高度一万フィート、つまり約3000 メートルのところまでは道路がある。僕たちはワンボックスカーに乗り込み、うねうねと曲がった山道を走りつづけた。 やがて終点にたどり着くと、まずテントを下ろし、各自のバックパックを整えた後、車を離れた。高度に慣れるため、この周辺で一週間、野宿をしながらハイキングする計画だった。空気は薄くなっているはずだったがいきなり高山病にかかるほどの高度でもない。寒さ以外は、特に [...]
山麓の街 Amecameca
悪臭に耐えながらの60時間の連続運転の末、僕たちは国境を越えた。 メキシコ領土に入ると周りの風景は大きく変わる。今にも崩れそうな民家が続き、車がその間を走り抜けると、未舗装の道路からは土埃がもうもうと舞い上がった。 やがて僕たちはAmecameca という小さな街にたどりついた。Mt. Popocatapetel への入り口に位置し、文明との最後の接触となる場所だ。野菜や果物を売る店や、今にもくず [...]
周到な準備をしてメキシコへ
実際、ダグとそのアシスタントは、登山に関してはかなりの経験があるようだった。 まず、雨に濡れると体温を奪うコットンは決して持参するな、すべてウール素材で固めろという指示が下された。僕は近くの古着屋に行って、ウール素材の衣類を買い集めた。大学生は基本的にお金がないので、キャンパスの周辺には古着屋がたくさんあり、1ドルから5ドルぐらいで何でも手に入った。 次の指示は、登山靴には金を惜しむな、最高級のも [...]
メキシコ登山ツアー
秋学期(Fall Quarter)の期末試験が終わると、感謝祭を皮切りに1ヶ月半の長い冬休みに入る。雪景色に閉ざされた、ミシガンの長い冬の始まりだ。学生たちは実家に帰って、家族と共に感謝祭とクリスマス休暇を楽しむ。 僕の場合、感謝祭はデーブの実家で過ごすことにしていたが、その後は行く当てが無かった。寮は年が明けるまでクローズされるので、どこか居場所を見つけなければならない。 高校時代のホストファミ [...]
June 2018
盛大な感謝祭パーティー
翌日は、近くのカントリークラブで盛大な感謝祭パーティーが開かれた。 ご両親はもとより、一番上のお姉さん夫婦、お兄さんとそのフィアンセ、弟さんと彼女、そして一番下の妹さんとボーイフレンドが、蝶ネクタイやタキシード、華麗なドレスなどに身を包み、銀の食器とキャンドルが整然と並んだ長いテーブルを挟んで座っている。 デーブの妹さんはまだ14歳で、笑うと歯の矯正金具が顔を出し、170センチぐら [...]
キャンパス・ディーラー
こういった癖のある女の子たちや落ちこぼれの男子学生、その他、キャンパス中のほとんどの学生とその人間関係に精通していた友人が僕には2人いた。彼らは共に、ある種の植物から生産される嗜好品のディーラーをしており、大学キャンパス内の元締めのような存在だ。 一応ヤバイ仕事のようなので、彼らは極めて鋭い人間観察力を持っている。大学中で知らない者はいない程の豊富な人脈を持ち、しかもそのひとりひとり [...]