ハイキングの最終日、僕たちはベースキャンプを Mt. Popocatapetel の赤茶けた斜面の中腹に移した。そして近辺の地形調査をしながら、翌日の登頂の訓練を行うことにした。

4000 メートルを超える辺りから氷雪の斜面となるため、滑落の危険性が高い。突起や樹木がほとんどない火山では、いったん滑り始めると途中で自然停止することなどは期待できないからだ。整地されたスキー場ならば、途中でコブに引っかかるか、滑り続けてもやがて斜度が無くなって止まるのだが、氷に覆われた登山の現場ではそうはいかない。

訓練場所は、少し登ったところの北斜面で、緩やかな傾斜の一部は氷雪に覆われていた。凍結と溶解を繰り返した氷雪の表面は、ザラメ状の古い雪と固い氷が入り交じった複雑な形状をつくり、午後の日差しを受けてテカテカと光っていた。僕たちは登山靴にアイゼンを装着し、ロープで全員をつないだ。

ひとりずつ順番に、氷の斜面でわざと倒れる。最初はゆっくりと滑り始めるが、まるで吸い寄せられるように、より斜度の強い方に向かって速度を増していく。ロープが身体を繋ぎ止めてくれているという安心感はあるが、速度が上がり始めると、急に恐怖感が全身を駆け抜ける。

今がチャンスだ。身体をねじってうつ伏せになり、ピッケルを斜面に突き刺す。失敗・・・ 砕けた氷のかけらと一緒に滑り落ちながら再び体制を整え、今度は頭上から一気に振り下ろす。そのまま手をいっぱいに伸ばしたところで、やっと身体は静止した。いつか観た映画のシーンが思い出された。

僕たちは日が暮れるまで、こんな練習を重ねた。こんな一夜漬けの練習で本番の時に役にたつのかと半信半疑だったが、何もやらないよりましだ。今となっては、とにかくリーダーのダグをひたすら信じ、ついていくだけだ。