登頂の日、朝4時。第一グループが出発した。数日前からの晴天は、この日もまだ続いていた。

登頂の成否は自然に大きく左右される。リスクを分散するために2つのグループに分け、時間をずらして別ルートで登頂を試みる計画だった。いずれにしても、天候の 安定している午前中に山頂アタックする必要がある。

6時ぐらいになって僕たちの第二グループが準備を始めた頃、第一グループがひどく疲れた様子でベースキャンプに戻ってきた。ルート途中の雪面の状態が悪く、滑落の危険が高いので断念したとのことだった。第二グループの代替ルートも、行ってみなければわからない。

リーダーのダグも第 二グループで登頂する予定だったが、第一グループの失敗を聞いて、彼はキャンプに留まると言い出した。苦労してここまで来たのだから一緒に登頂しようと、皆でダグを説得したが、彼は頑なに拒否した。登頂にチャレンジできなかったメンバーがいる以上、責任者の自分が登頂するべきではないとの配慮だ。

緊張感の中、僕たちは出発した。最初はゆるやかな斜度なのでペースは速い。高度に十分順応した身体は、呼吸も乱れることはない。山頂まではかなりの道のりだ。僕たちはひたすら、火山灰の歩きにくい斜面を突き進んだ。

やがて、斜面全体が一面の氷雪で覆われるようになった。場所によってはかなり斜度がきつい。遠くに見える何層もの雲によって地平線の角度がわかり、そこから斜度が推測できる。

僕たちは全員をロープでしっかりと結び、ピッケルを杖がわりにして、アイゼンの爪をしっかりと氷面に突き刺しながら一歩一歩、着実に前進した。