高度一万フィート、つまり約3000 メートルのところまでは道路がある。僕たちはワンボックスカーに乗り込み、うねうねと曲がった山道を走りつづけた。

やがて終点にたどり着くと、まずテントを下ろし、各自のバックパックを整えた後、車を離れた。高度に慣れるため、この周辺で一週間、野宿をしながらハイキングする計画だった。空気は薄くなっているはずだったがいきなり高山病にかかるほどの高度でもない。寒さ以外は、特に地上との違いはなかった。

しばらく周辺を調査しているうちに、ちょろちょろと音を立てて流れる小川を見つけた。やった!これで水の心配はない。昼間の日光で溶けた雪が山肌をつたって集まり、透明な水の流れを作っていたのだ。僕たちはその近くのフラットな丘をベースキャンプ地と決め、テントを張ることにした。

メキシコとはいっても高度3000 メートルになると、さすがに夜は冷え込む。日が暮れてくると、ダウンジャケットを着込んでも寒さが身に染むようになった。焚き火で身体を暖めながら夕食の準備をしたが、僕は一刻も早く暖かい寝袋にくるまりたかった。

今回は、暇はあるが金は無いという冒険好きな学生が企画した貧乏ツアーだ。本格的な登山ツアーとはかけ離れており、各自がバックパックひとつだけという軽装備で2週間近くを山中で過ごす。

バックパックの下部には巻いた寝袋を取り付けるため、空いているスペースは中段と上段のみだ。そこに自分の衣類、食料、食器などを詰め込むと、ほとんどテントのためのスペース残らない。今回は簡易テントを2つだけ手分けしてキャリーしており、そこに合計9人が転がり込むのだ。

狭い内部を嫌って外で眠る者もいた。草の上にビニールのシートを敷き、その上に寝袋を広げる。雨が降った時のために一応、頭上にもビニールシートを張るが、なんとも心もとない装備だ。ただしいったん寝袋にくるまると中は暖かで、僕にとっては毎晩、この瞬間が至福の時だった。