悪臭に耐えながらの60時間の連続運転の末、僕たちは国境を越えた。

メキシコ領土に入ると周りの風景は大きく変わる。今にも崩れそうな民家が続き、車がその間を走り抜けると、未舗装の道路からは土埃がもうもうと舞い上がった。

やがて僕たちはAmecameca という小さな街にたどりついた。Mt. Popocatapetel への入り口に位置し、文明との最後の接触となる場所だ。野菜や果物を売る店や、今にもくずれそうな屋台、さまざまな衣類や装身具の店、店先に所狭しと土産物を並べた雑貨店など、数多くの店がひしめき合った大きな市場で、とても活気に満ちていた。

僕たちはここで、10日分の食料を調達した。

とは言っても、できうる限り重量を押さえて装備を軽くするため、必要最小限の物資に限定する必要があった。ディナー用には大豆を原料にした乾燥肉、ランチ用にはクッキーと干しぶどうとピーナッツ、野菜は日持ちのする人参のみ。重量とカロリーと栄養バランスを考慮した結果だが、大学カフェテリアの充実したメニューに慣れた僕たちにとっては、なんとも淋しいばかりの食材だった。

水は重量があるので運搬せず、山間の雪溶け水を利用しようとの方針だった。メキシコでもこの時期になると涼しく、4000メートル以上の山には雪が積もっている。地上から見上げる Mt. Popocatapetel の頂上はすっぽりと雪に覆われ、まるで富士山を円くしたような威容を呈していた。