登頂までの不安と緊張に比較して、下山はあっけない。山頂付近では滑落しないように細心の注意を払いながら降りて行ったが、雪が無くなるあたりから次第にペースは速くなり、足元が岩と火山灰で埋まるようになってくると、ざっ、ざっ、とリズミカルな音を立てながら斜面を一気に駆け下りるような感じだ。

ベースキャンプに集合した僕たちは、全員で登頂の喜びを分かち合った。僕たちの帰還を心配そうに待ちわびていたダグは、まるで自分のことのように祝福してくれ、とりわけ、ハイキングの3日目に体調を崩したスコットが登頂を達成したことを褒め称えた。真のリーダーたるものは、自分の部下が何かを成し遂げ成長することに喜びを感じる。僕はダグがベースキャンプに留まった理由が分かった気がした。ひと休みしてからテントをたたみ、車まで戻った。

さあ、あとは帰るだけだ。国境を越えれば再びノンストップの長旅になるので、せっかくのメキシコを少し楽しもうということになった。ふもとのAmecameca では 1~2 時間滞在し、おみやげを買った。そしてメキシコシティーまでのドライブの途中、僕たちは登頂成功を祝福する意味で今回のツアー最大の贅沢をした。マックドナルドに寄ったのだ。ハンバーガーがこれほど美味いと思ったことはなかった!

そしてその晩、もうひとつの贅沢としてホテルに滞在した。とは言っても、貧乏旅行の予算が許すはずはない。ひとりが安いホテルのシングル・ルームを借り、あとからこっそりと、ひとり、ふたりと部屋に忍び込むのだ。シングルの部屋に9人はさすがに辛く、大半は床で眠ることになるのだが、僕たちには寝袋という強い味方がある。

一番嬉しかったのは、2~3週間ぶりのシャワーだった。われ先にと交代でシャワーを酷使した結果、シャワールームの排水が追いつかず、ホテルの部屋はあやうく水浸しになるところだった。その晩は、全員が死んだように熟睡した。