こういった癖のある女の子たちや落ちこぼれの男子学生、その他、キャンパス中のほとんどの学生とその人間関係に精通していた友人が僕には2人いた。彼らは共に、ある種の植物から生産される嗜好品のディーラーをしており、大学キャンパス内の元締めのような存在だ。

一応ヤバイ仕事のようなので、彼らは極めて鋭い人間観察力を持っている。大学中で知らない者はいない程の豊富な人脈を持ち、しかもそのひとりひとりに ついて、どの程度信頼できるかなどのリスク・ファクターを正確に把握している。

そのうちのひとりスティーブは、いろいろなパーティーによく誘ってくれた。ただ、かなりイッてしまっていた部類に属するディーラーのようで、誰に対しても常に非常にフレンドリーではあるものの、僕は少し距離を置くようにしていた。

ある日、僕を見つけると、スティーブは嬉しそうな顔でこう言った:

彼: Hey Suchan!  We’re gonna have a mushroom party tonight.  You wanna join us? (スーちゃん、今夜キノコパーティーをするんだけど、来ないかい?)

僕: Mushroom? What’s the catch? (キノコ? 何かあるの?)

彼: We’re gonna eat mushrooms, you know.  Not much, though.  You don’t wanna die, right? (食べるんだよ。でも少しだけさ、死にたくないからね。)

よくよく聞いてみると、毒キノコ(笑い茸)を食べる会とのこと。ある量を超えて食べると死んでしまうので、少しだけ食べる、ということのようだったが、わざわざそんな危険を冒す理由が僕にはよく分からなかったし、知ったら多分ヤバイことになりそうだという予感がして、断った。

もうひとりのデーブは、異なる文化圏から来て事情が分からないだろうと、何かにつけて僕に目をかけてくれた。健全な友人ができるよう、パーティーの種類を選んでは僕にも声をかけてくれ、どういった連中は避けるべきか、どこに行ってはいけないか、何がヤバイのか、何が大切なのかなどを教えてくれ、いつも相談にのってくれた。

感謝祭(Thanks Giving Day)が近づくと、デーブは僕がどこにも行くところがなく悩んでいるだろうと推察し、彼の実家で休日を過ごさないかと誘ってくれた。感謝祭、クリスマス、バレンタイン、イースターなど、アメリカの祭日は家族が中心となる。街中が人でごったがえす日本のクリスマスや、製菓会社の陰謀とも思えるような日本のバレンタインなどとは、大きく違うところだ。休暇を利用した独身旅行もいいが、家族の暖かさに勝るものはない。そんな暖かさを僕にも味合わせてあげようという、彼の配慮だった。

デーブの実家は非常に裕福で、一番上のお姉さん夫婦、婚約中のお兄さんとそのフィアンセ、幼い頃に養子として迎え入れた弟さん、そして一番下の妹さんとその彼氏など、豪華なリビングに全員が正装で勢ぞろいし、僕を笑顔で出迎えてくれた。大きな食卓に並ぶ銀の食器に盛り付けられたターキーやご馳走の数々を眺めながら、家族の絆というのはユニバーサルなものだということを実感した。

僕は久々に、家族がこうして集う喜びの中に浸ることができ、日本の親のことを少し懐かしく思い出していた。