後部座席で横になって眠っていたカトリーヌが衝撃で目を覚まし、何があったの? と不機嫌そうな顔で訊いてきた。

いや、ちょっとガードレールに擦っただけだと説明しておいたが、今から思うとまさに悲劇と紙一重だったわけだ。このガードレールが無かったらどうなっていたことだろう。車は深い谷底に向けて真っ逆さまに転落し、カトリーヌと僕の命を一瞬にして奪い去ったに違いない・・・

僕は身震いした。自分が死ぬだけならまだしも、全く罪のない他人までも、危うく巻き添えにしてしまうところだった。

無謀なドライバーのせいで大切な娘を失うところだった先方家族、そして癒されることのない罪の意識を一生背負い続ける運命に陥るところだった僕の家族のことなどを考えると、自分のことだけしか眼中になく軽々しい行動をとってしまった自分を深く恥じた。

メキシコ登山でも、リーダーのダグは常に周囲やメンバーに目を光らせ、感覚を研ぎ澄まして慎重に対処していた。僕は登頂を成し遂げたことを自分の成果だと思い込み、やれ自由だ、やれ自己責任だなどと言って、有頂天になり過ぎていたようだ。