吹雪が強くなると、極端に視界が悪くなった。いわゆるホワイトアウトの現象で、道路がどこへ続いているかもよく見えず、先行車のテールランプか対向車のヘッドライトだけが頼りだ。

幸い雪は降り始めたばかりで、路面の積雪は僅かだ。路肩に雪が吹きだまり道路が凍結し始めるまでには、まだ時間がある。ノーマルタイヤでも何とかなる状況だ。

Suchan!  The car is stuck!

突然、デニスが叫んだ。先行車のタイヤの跡を外れた部分には雪が積もり始め、後輪がスリップしている。

Let me drive.  Can you get outside and push the car?

僕は運転を交代して、デニスに後ろからクルマを押すよう指示した。

こんな時はマニュアル・トランスミッションが重宝する。何度かセカンド発進を試みて、クルマは雪だまりからやっと抜け出した。僕たちは細心の注意を払いながら運転を続けた。

吹雪がますます強くなってきた。車内は一応暖房がついているものの、錆で穴だらけのボディから、冷気が容赦なく入ってくる。時折スリップでクルマが横を向いたりすると、デニスか僕のどちらかが車外に出てクルマの方向を修正した。

そのうち助手席のドアがきっちり閉まらなくなった。何度も開け閉めしたために、ラッチの部分が壊れたらしい。やむなく手動のレギュレーターハンドルにロープを引っかけ、それをシートに結びつけることで何とか固定できた。ドアが取れてしまったクルマでも平気で走っているアメリカでは、こんなことで怯んではいけない。

夕方になって雪は止み、僕たちは高台に出た。遠くには Steamboat スキー場のスロープが見え、ふもとの民家にきらめく灯りが、少しずつ増えつつある。

さあ、あと少しだ。僕らは日が沈む前に宿に着こうと、曲がりくねった山道を急いだ。