日が沈んで辺りが薄暗くなる頃、僕たちは宿に到着した。二人合わせて5泊で35ドルの、格安ロッジだ。

メキシコ登山ツアーの時の経験を生かして、僕は費用を切り詰める方法をあれこれ考えた。交代運転によるノンストップ・ドライブもそのひとつだし、共同宿泊型の宿ならば安全な上に値段も安い。さらにキッチンががついていれば自炊ができ、食費も抑えられる。

アメリカでは外食は高くつく。昼食はサンドイッチなどで簡単に済ませ、夕食は家で家族と共にテーブルを囲むのが通例で、商談や記念日などの特別な機会にレストランを利用することが多い。そのため、アメリカの外食産業は個性的な雰囲気やサービスを全面に押しだし、値段の安さは二の次となる。

これは外食店全般に言えることで、例えばデニーズなどのチェーン・レストラン入っても、そこそこの金額となる。ファストフードはランチならまだしも、夕食には物足りない。ショッピングセンターにあるフードコードは安価で選択肢も多く便利だが、それも夜の9時になると閉まってしまう。日本のように、安く手軽に利用できる吉野家や松屋のような店は皆無だ。

結局、ひとり者であっても朝夕は自宅で料理するしかない。大学留学の時は全寮制で、キャンパス内のカフェテリアで三食提供されるので食事の心配は全く無かった。ところがハーバード大学院に行ったときは、学部の食堂は外部には開放されていなかったため、夜は自炊をすることが多かった。肉の塊を買ってきてステーキを焼きサラダを作るのがいちばん手っ取り早く、それに飽きたら近くのヤオハンという日本食スーパーで食材を入手し、ご飯を炊いてトンカツや味噌汁を作ったりした。

今回のロッジには、宿泊者用の共同キッチンがあり、そこで自炊をすれば食費も切り詰めることができる。僕たちは到着して荷物を運び入れると、さっそく近くのスーパーへ買いだしに出かけた。

アメリカのスーパーは巨大だ。ありとあらゆる食材が、広大な売り場に大量に並べられている。ショッピングカートも、大人が乗って移動できるほど頑丈で馬鹿デカい。

Hey Suchan!  Have you tried this?  It’s very good!

デニスは、普段食べ慣れている食材やスナックを、次々とカートに放り込む。いつ何を作るのかは全く考えていない様子だ。

一方で、僕には名案があった。

Let’s fix peanut butter and jelly sandwitch for lunch!

ピーナッツバターとジャムをパンに挟んだシンプルなサンドイッチは、僕の大好物だ。簡単に作れるので、毎朝さっと作ってジャケットに入れておけばランチ代も浮く。僕は毎日の献立を考えながら、無駄にならないよう慎重に食材を選んだ。

僕たちのカートは、みるみるうちにいっぱいになった。食材ひとつひとつのパッケージが大きいので当然なのだが、レジで会計してもらったところ、その金額に僕らは唖然とした・・・ なんと、合計金額が 200ドルを超えていたのだ!

宿泊費の6倍だ。僕のクルマよりも高い。こんなに使うなら、毎日レストランで優雅に食事する方が良かった・・・

ところが脳天気なデニスは、いっこうに構わないといった様子でパーソナルチェックを切ろうとしている。今回の旅行は完全に割り勘だから、僕が半額を負担することになる。

その晩は、何を作って食べたかは覚えていない。とにかく無事に到着できたことを喜び合い、ふたりで祝杯をあげた。