幻想的な夢の世界へと続いていたフリーウェイは、夜が明けると現実に戻る。

日夜ぶっ続けの運転で疲れたので、ひと休みしながら食事を採ろうと、僕たちは次の出口サインで側道へとハンドルを切った。久々に窓を開けると、早朝のフレッシュな空気が心地よい。

小さなタウンの中心部を通るまっすぐな道の両側には、木造の平屋建ての店が建ち並んでいる。日夜ぶっ続けの運転で少し疲れたので、ひと休みしながら食事を採ろうと、僕らは最寄りのカフェテリアに入った。

映画でよく見たことがある典型的なアメリカン・カフェだ。店内にはボックス席がいくつかあり、一番奥にジュークボックスが置いてある。カウンター越しのコーヒーメーカーが元気よくシューシューと音をたてて朝の香りを放ち、その奥の棚には無数のウィスキー・ボトルが、昨夜の疲れを癒しているかのように並んでいた。

店の奥の席では、数人の男性が暇そうに雑談している。全員、カウボーイハットにブーツ、それに革のジャケットだ。まるで西部劇のキャストがそのまま現代にタイムスリップして来たような錯覚に陥る。

僕たちは入り口近くのボックスに陣を取った。ベスは地元に帰ってきた安心感か、ビニール製の安っぽいソファーに横になってくつろいでいる。デニスといえば、さっそく持参したカウボーイハットをかぶって悦に入っている。もともとカントリー調の服装が好きな彼は、このカフェにいると完全に周りに溶け込んでしまった感じだ。

こんな時はアメリカン・ブレックファーストに限る。卵、ソーセージ、ベーコン、ポテト・・・ 僕はサニーサイド・アップのエッグふたつと、大好物のハッシュブラウンを注文した。エッグについてくる、カリカリのベーコンが最高だ。

コーヒーはもちろんおかわり自由だ。カップの残りが少なくなると、ウェイトレスが “Would you like another coffee?” などと言いながら、満面の笑顔で足してくれる。僕はこのシステムが大好きだ。それだけで、チップをはずみたくなる。

こんなにリッチなアメリカン・ブレックファーストを食べていると、何かをたっぷり飲んで脂肪分を中和したい衝動にかられる。フランスならば、たっぷりのバターで焼き上げたクロワッサンに朝のカフェオレは完璧に合うし、イタリアなら、遅い昼食の後に濃厚なエスプレッソを一気飲みするのが相応しい。でもアメリカの朝なら、タンパク質たっぷりのメインディッシュと一緒に、パーコレータで煎れた薄めのコーヒーを何度もおかわりするのがベストだ。

日本で一時流行った和製概念「アメリカン・コーヒー」などは、この本質を取り違えている。ブレックファースト抜きで、しかもおかわり自由でないアメリカン・コーヒーなどあり得ないと僕は思うのだが・・・

遅い朝食後、僕たちはフリーウェイに戻り、まずはコロラド州のデンバーに寄って後部座席のベスを降ろした。デニスと僕は、そこから目的地の Steamboat Springs に向けて、山越えのドライブを続けた。宿までは3時間あまりの道のりだ。

快晴だった周りはいつの間にかガスが立ちこめ、気がつくと雪が降り始めていた。それがやがて吹雪に変わり、ノーマルタイヤの僕たちの行く手を阻んだ。