3月中旬から約3日間、冬学期の期末試験が行われる。それが終わると、12日間の春休みだ。
スキー教室を終了したご褒美にK2スキーを買ったばかりの僕は、その性能を試したくてウズウズしていた。そこでクルマを紹介してくれたデニスと一緒に、コロラドにスキーに行く計画を立てた。マイカーによる初のロングドライブだ。
さて、スキー場はどこにしようか・・・ スキーのメッカ、コロラドと言えば、アスペン(Aspen)やヴェール(Vail)が有名だが、どちらも超高級リゾートで、学生の僕たちには予算的に敷居が高すぎる。いろいろ悩んだ末、スティームボート(Steamboat)という、コロラドでは少しマイナーなスキー場に決めた。カウボーイが馬に乗ってスキーを担いだポスターが、妙にカッコ良く見えたのがその理由だ。
デンバー出身の女子学生ベスも、春休みを利用して帰省したいから同乗させてくれと頼んできたので、一緒に連れて行くことになった。
コロラドまではクルマで約20時間かかるが、昼夜交代で運転すれば丸一日で到着でき、宿泊料もかからない。3人なので、後部座席でひとりが横になって十分に睡眠がとれる。冬休みに参加した登山ツアーのメキシコ往復と比べれば、近所に遊びに行くみたいなものだ。
満タンにしたガソリンが無くなるまでフリーウェイをひたすらドライブすると、このまま何処へでも自由に行けるという開放感に浸ることができる。深夜のドライブは特にロマンチックだ。街から離れるにつれて徐々に夜景が消えていくと、道路を照らす照明以外は真っ暗なフリーウェイだけが話し相手だ。そして再び、遠くに街の灯りが見えてくるとそれが見る見るうちに近づいてきて、華々しいネオンサインが辺りを照らすようになる。
午前4時、ワイオミング州にさしかかった。巨大なトレーラーと何度も行き交いながら、通り過ぎつつある街の夜景の美しさに目を奪われていた僕の耳に、ラジオから聞き慣れたメロディーが流れてきた。タンタンタンタン、タンタンタンタン、タンタンタンタン・タンタンタ~ン・・・ エアロスミスの Dream On だ。
助手席のデニスは軽いいびきを立てながら、次の運転交代に備えて眠っている。後部座席ではベスが毛布をかぶり熟睡している。ラジオの静かなメロディーに乗って、遠くに見え隠れする次の街の夜景に想いをはせながら、僕はヘッドライトが照らす道の行方を追った。
そうだ、夢を見続けるんだ・・・ 何でもいい、自分の夢に全身全霊を捧げ、ひたすら前進するんだ・・・ 果てしなく続くフリーウェイを走りながら、僕はそんなことを考えていた。遙か彼方の空は少しずつ紅色に染まり始め、紺碧の空が夜明けの陽差しに彩られる瞬間を待ち構えている。紺と朱が絶妙なハーモニーで混ざり合うその瞬間・その場所に向かって、僕はひたすらドライブを続けた。
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