このスキー・レッスンに通いながら、毎回、僕の心を奪う光景が見られた。

レッスンが行われる緩やかな斜面の隣には、斜度が40度以上はあると思われるコブコブの急斜面があった。丘を切り開いて作ったと思われるエキスパート用の急斜面だ。表面には不規則なコブがびっしりと並び、しかもその表面はテカテカに光っている。 このレベルの斜度になると、雪が降っても積もらない。シーズン初期に降った後に滑り固められた雪が、午後の日差しで溶けては凍結を繰り返し、硬いアイスバーンとなった氷の壁だ。

アイススケートのリンクを波打たせて垂直に吊るしたようなその斜面を、なんと蝶が舞うように滑り降りるスキーヤーたちがいた。彼らは、エッジをはずさないようにスキーを正確にコントロールしながら、氷の斜面を舞う。エッジ・ウェーデルンやエア・ターンを駆使するので、文字どおりダンスをしながら舞い降りるように見える。

スキーの両端についたエッジをナイフとみなし、これで氷を「切って」いく彼らにとって、スキーは4枚の刃を備えた刀だ。刀で氷を切りつけるように、スキーのトップから斜めに氷の斜面に切り込み、そのまま刃の角度を一定に保つ。スキーのしなりとカービングで緩やかな弧を描いた次の瞬間、反対側のエッジに切り替えてスキーのトップからまた新たな切り口をつくるのだ。

エッジという刀の扱いを完璧に習得すれば不可能ではないが、エッジが切り口から外れた途端、斜面の下まで真っ逆さまに転落する。チリッ、チリッ、という独特の音を立てて彼らが舞い降りた後には、斜面にカミソリで切り刻んだような傷跡が残る。

こんな連中のことを、エクストリーム・スキーヤー(Extreme Skiers)と呼ぶ。Extreme つまり極限に好んでチャレンジする命知らずのフリークたちだ。彼らは不可能を可能にするテクニックを考案し、それに磨きをかけ、ついに人間ワザとは思えないようなパフォーマンスを披露するようになる。

アメリカ人の本質を一言で表現するならば、この「命知らず」という言葉だろう。危険区域に飛び込み、むき出しの岩壁だらけの斜面をジャンプしながら滑ったり、立ち並ぶ木々の間を高速で滑りぬける Tree Ski などという、命がけの狂気じみたジャンルまで確立してしまったりする。