日本の大学でのオタク環境を思い出した僕は、この大学での9ヶ月が神の恵みのように思われた。1年したら、またあの環境に戻らなければならない、ここはひとつ何でもチャレンジしようと、心に決めた。

手始めに、バレーボールのチームに入った。背丈では遠く及ばないがジャンプ力には自信があったからだ。ところが練習の最中にネットの鉄柱で足先を強打し、なぜか小指の骨にヒビが入ってしまった。それから6週間ほど、僕は不自由なギブス生活に入ることとなった。

<Sam の独り言/ここから>

どういった因縁なのか、僕は何か新しいことを始めると、軌道に乗りかけた途端に、病気や大怪我をする。

高校に入学して成績が伸び始めた途端、僕の十二指腸には突然穴が空いて、あやうく死ぬところだった。緊急手術で一命を取り留めたものの胃を切除し、その後の再手術も含めて、2ヶ月にも及ぶ入院生活を送った。

今回もアメリカの大学に留学した途端、足の小指を骨折してしまったわけだ。さまざまなイベントに参加して周りと親交を深める大切な時だったのに、ギブスを装着し、思うように動き回ることができなかったのが口惜しかった。

外資系企業に入社した直後のゴールデンウィークには、菅平高原でハンググライダーに挑戦して墜落した。左肘を脱臼・複雑骨折して手術を受けた結果、僕の左肘はまっすぐ伸びなくなってしまった。リハビリを続けても改善の兆しは見えず、ついに一生、左肘の不具合と付き合わざるを得なくなった。

この菅平での出来事は、とりわけ不気味だった。前の晩に皆でトランプの探偵ゲームをしていたのだが、カードを配る都度、必ず僕にジョーカーが来た。何度ゲームを繰り返しても、まるで呪われたようにジョーカーにつきまとわれる偶然に嫌気がさして、僕は途中でゲームから降りた。今思えば、これが事故の予兆だったのかも知れない・・・

<Sam の独り言/ここまで>

運悪く、僕が松葉杖をついていたその6週間の間に、モンテカルロ・ナイトというカジノ・パーティーが開かれた。教授陣も巻き込んだ新学期最初の大パーティーで、学生と教授の親睦を深める狙いがあった。

普段は怖い顔をしている先生でも、蝶ネクタイと白いシャツの上にベストを着て、チョビ髭で変装しブラックジャックのディーラーに扮すると、実にサマになった。生徒たちはそんなテーブルを囲みながら、大騒ぎでチップを賭けまくる。どこで調達してきたのか、女学生は派手なカクテルドレスに身を包み、男子学生は真っ白のスーツを着てみたりと、この日とばかりにドレスアップする。

たった一晩のイベントだが、ライブバンドも入り、まるでラスベガスのような雰囲気だった。

そんなお祭り騒ぎのおかげで教授たちの思わぬ一面を見ることができ、以前より身近に感じられるようになった。それと同時に、学生間の親睦が深まったのは言うまでもない。同じ状況に置かれると、気軽に声をかけ知り合うことができる・・・ 平たく言えば「ナンパ」だ。

速攻が命のナンパにおいて、松葉杖ほど邪魔なものはなかった。当然、僕のナンパ成績はかんばしくなかった。