このアメリカの大学には、学習意欲を向上させる強烈な要因があった。男女共学ということだ。

女の子がいるとこんなにも違うものなのか、僕は得意な理数系のクラスでは、積極的に発言した。また、Tutor と呼ばれるアルバイトも引き受け、授業についていけない大学1年生に時間外で個人指導し宿題の手伝いをした。

物理の Tutor ではフレッシュマンの女の子を相手にするケースが圧倒的に多く、最初は僕のことを馬鹿にしたような表情で説明を聞いていた女の子も、やがて熱心に質問をしてくるようになった。

理数系に限って言えば、通常のクラスではちょっとレベルが低いなと感じた僕は、大学院生に混じって Electricity and Magnetism(電磁気学)の講義をとった。ベクトル解析を前提とするこの分野では、日本ではちんぷんかんぷんだった。

そのクラスは、僕の他に男子大学院生が2名、あとは教授だけという構成だったので、毎回、教科書の予習部分を話題に教授との対話が中心となった。難解と思い込んでいた学問が驚くほどシンプルで美しい体系であったことに気付き、最初は例によってひどく面白く感じたが、後半から僕は少しだれ始めた。

教授や男子大学院生相手にどんなに利口そうな発言をしても、結局は知能ゲームをやっているにすぎず、どうもアドレナリンが出ない。やはり、可愛いギャラリーがいなければ、頑張る意味が無いというものだ。

社会科では常にそうだったが、僕は、自分の興味が失せるとすぐに居眠りを始める癖がある。このクラスでも、学期の半ばを過ぎる頃から居眠りをするようになってしまった。

4人のクラスで教授がそれに気が付かないはずはないが、彼が実に寛大な態度をとったのには驚いた。教授は僕を注意することもなく、居眠り中にわざと指名することもなく、たまたま何かを問いかけた時にふっと我に返ってあたりを見回す僕を問い詰めることなども、決してしなかった。

要するに完全に自己責任なのだ。教授の話に加わって学習効率を上げるならそれでよし、居眠りをして試験にパスできるならそれもよし、そんな感覚だ。

僕はこの居眠りが原因で試験に失敗し、Aを逃してしまった。結果、2学期連続のストレートAは叶わぬ夢となった。