カラマズー大学はクオーター制をとっていて、1年を4つに分割している。

夏はサマースクールやボランタリー活動などに当てられるので、ほとんどの学生にとっては夏休みとなる。

新学期となる秋学期(Fall Quarter)は、9月の初めにオリエンテーションがあり、9月上旬にクラスが開始され11月中旬まで続く。渡米後、高校時代の友人たちを訪れながら夏休みを過ごした僕は、8月末に大学キャンパスに到着し、寮への入居手続きを済ませた。

そこは Trowbridge Hall と呼ばれる細長い寮で、中央がローンドリーやスタディ・ルームなどの共有エリアとなっており、そこから左右に女子ウィングと男子ウィングに分かれている。僕にアサインされたのは地下の端から2つ目のダブル・ルームで、バスルームを隣のユニットと共有する構造になっていた。

地下なので暗く建物も古いため、このエリアは “Skid Row“(失業者・路上生活者などがたむろする街) と呼ばれていた。隣りの部屋の連中がとにかく陽気で面白く、いつもふざけ合って麻薬中毒者の真似をしたりしていた。ただ、転校生の僕のルームメイトはなぜか友人を作らず、僕らの仲間にも加わろうとしなかった。

ルームメートと折り合いが良くなかった僕は、毎晩早くベッドに入ってしまう彼に遠慮して、部屋で勉強するのを諦めた。その代わり共有エリアのスタディ・ラウンジで宿題をこなすのが日課となったが、それは別の意味で最高の環境だった。

秋学期が終わると長い冬休みとなる。寮は閉鎖されてしまうので、僕はその休みを利用して、メキシコ登山ツアーに参加した。ツアーから戻ると、大学のキャンパスは雪で覆われていた。寒い冬学期(Winter Quarter)の始まりだ。

僕はアカデミック・アドバイザーにお願いしてHarmon Hall という別の寮のシングル・ルームに引越しさせてもらった。トイレ・シャワーは共同であるものの、入口のドアを閉めれば誰にも邪魔されない自分だけの空間がある。ドアを開けるとと右にベッド、左に机があり、小さなテーブルがやっと置けるぐらいのスペースだ。

入口の反対側には小さな窓があり、缶ビールを出しておくと直ぐに冷えた。ただし冷やし過ぎると破裂することもあるので、注意が必要だ。僕はコーヒーのパーコレーターとタイプライターをデスク脇の小さな棚に置き、誰にも邪魔されないプライベート空間を満喫しながら勉強に集中した。

春学期(Spring Quarter)は、Severn Hall に移った。今でいう「シェアハウス」みたいなもので、アパートのようなユニットで6人が共同生活をする。ひとつのリビングと簡易キッチン、2つのダブル・ルームと2つのシングル・ルームによる共同生活は、とても楽しかった。当然、シングル・ルームは上級生にアサインされるので、僕は再びダブル・ルームにアサインされたが、僕のルームメートはテニスの選手で、明るく最高の奴だった。

上級生たちは、さすがに落ち着きがあった。馬鹿騒ぎばかりしている僕ら freshman や sophomore と違い、物静かで思慮深く、僕らのいい相談相手になってくれた。部屋で机に向かい、静かに論文を書くのが彼らの日課で、たまに共同のリビングへ息抜きに出てくる。

食事は3食すべてカフェテリアで提供され、洗濯物は地下のコインランドリーに放り込んでおけばあっという間に終わってしまう。本や文具品や衣類などの必需品は何でもキャンパス内のストアで購入でき、掃除・カフェの給仕・チューターなど、アルバイトの機会も豊富だ。人が恋しくなったら、毎晩キャンパスのどこかで行われているパーティーに行けばいつでも気分転換できる・・・

日本の狭いアパート生活とは比べものにならないほど合理的なこの環境のおかげで、僕は自分の時間の大半を勉強につぎ込むことができた。