マサチューセッツ大学と比較して、田舎町のこの小さなカレッジは、やはり保守的だった。お坊ちゃんお嬢ちゃんにもしものことがあってはいけないという配慮によるものなのか、僕が夢にまで見た「男女共学寮」はなかった。どの寮も、中央を境にして、男子ウィングと女子ウィングに明確に分離されている。

女難の相がある僕は、神のお導きによってか、Trowbridge Hall と呼ばれる寮の男子ウィング、それも中央から一番遠い場所の地下のスイートルームにアサインされた。スイートと言っても、男2人のダブル・ルームが真中のバスルームでつながっているというだけのことで、要するにバスルームを共同で使え、ということだ。このホールの一角は、ジョーク混じりに「Skid Row」(ホームレス・麻薬中毒者などがたむろするエリア)と呼ばれており、建物は古く、暗く、最悪の設備だった。

隣には DeWaters Hall と呼ばれる女子寮があったが、そこは男子禁制のエリアだっ た。(なんか、日本の大学で受けた屈辱に似ていた・・・ これも神のお導きだろうか・・・)転校生の僕のルームメートは友人がいなく愛想も悪かったので、まわりとは全くウマが合わなかった。当然生活習慣も僕とは全く異なり、夜どこからともなく戻ってきた 彼はシャワーを浴びるとベッドに入って、毎晩かなり早い時間に眠りについた。 僕は彼を起こさないようにと、部屋の電気を消し音をたてないよう、気を遣いながら勉強したものだった。

ルームメートと生活習慣が合わない学生は結構多い。そんな人のために、それぞれの寮には「スタディ・ラウンジ」と呼ばれる勉強部屋が用意されている。ただしラウンジという言葉どおり、勉強部屋というよりはむしろリビング・ルームだ。 大きなテーブルを囲んで椅子がいくつか配置されており、部屋の端にはソファーが置いてある。勉強に疲れた人はそこで仮眠をとることもできる。 実際、テーブルと椅子よりもソファーの方が人気があった。スタディというのは名ばかりで、どちらかと言えば「だべり部屋」と呼んだ方がいいかもしれない。

スタディ・ラウンジの素晴らしい点は、ソファーだけではない。男子ウィングと女子ウィングが交差するちょうど中間点に作られており、いずれのウィングからも自由に出入りできる。つまり、絶好の社交場ということだ。 一応、皆、勉強を目的に入ってくるため、なんとか中毒や酔っ払いなどのアブナイ連中はいない。しかもなぜか女の子が圧倒的に多かった。(女性の方がルームメイト とうまくいかない確率が高いのかもしれない) 気の利いた会話が苦手な僕も、宿題という共通の悩みを抱えている女子学生に対しては話題を作りやすい。(彼女たちが酔っ払っている時は全く手がつけられないが・・・)

夜、ロマンチックな間接照明で演出された伝統建築のインテリアの中で、毎晩女の子たちと談笑できる・・・ まるでハーレムのような理想の環境に惚れ込み、僕は毎晩そこで勉強?した。