高校時代のホストファミリー宅に数日滞在したあと、僕は東海岸までバスで行く予定にしていた。実は高校留学から帰ったあと、僕にはアメリカ人の彼女がいた。 同じ留学制度により日本で1年を過ごした彼女は既に本国に戻り、マサチューセッツ大学に通っていた。彼女の寮に数日間泊めてもらう予定だった。

オハイオからマサチューセッツまでの長いバス旅に疲れきった僕を、彼女は派手な印象のルームメイトと一緒に車で迎えに来てくれた。彼女たちふたりは、Co-ed dorm(co-educational dormitory)、つまり「男女共学」の寮でルームシェアをしている。共学と言っても、男性2人の部屋と女性2人の部屋が 交互にアレンジされているだけで、男女が部屋をシェアしながらある種の教育を現場実習するシステムではない。

僕が彼女を訪問している期間中、彼女のルームメートは気を遣い、彼氏の部屋に泊めてもらっていたようだ。 では彼氏のルームメイトはどうするのか?・・・ 当然、自分の彼女の部屋に泊まる。ではそのルームメイトは?・・・ 彼氏の部屋に泊まるわけだ。

こんな感じで押し出しゲームを続けていくうちに、旅行中などで空いているベッドに行き着く。共学寮であれば、このメカニズムが極めて効率よく実現できるというわけだ。アメリカはつくづくアバウトな国だと思う。

2万人以上の学生を擁するマサチューセッツ大学はマンモス大学の部類に属し、広大なキャンパスと潤沢な設備が印象的だった。 それに比較すると、僕がこれから9ヶ月を過ごすミシガンの大学は、実にこじんまりとした寂しい印象だった。

ただ、赤い煉瓦づくりの伝統的建築で構成されたキャンパスには家族的雰囲気が漂い、僕の好みに合っていた。アカデミック・アドバイザー、つまり僕の勉強面における相談役を引き受けてくれたのは思慮深い数学の教授で、指先の動きにちょっとオカマチックな雰囲気があった。(実際、そうだったようだ。)

小さい大学だから、教授とも学生とも、きっと家族のような付き合いができるだろう・・・ そう思った僕に、ひとつ気になることがあった。女学生の割合は半分ぐらいなのにも関らず、「美人が少ない!」という印象だった。やがて、それが単なる印象ではなく事実だということが判明した時、僕は自分の運命を呪った。

数年前にオハイオの田舎町で1年を過ごした僕は、アメリカ女性の美貌に対して過剰な期待をしていた。高校であのレベルなら、大学に行ったらもっと凄いだろう・・・ 僕は本気で、ハリウッドのような環境を想像していたのだ。