新学期初日の登校ほど緊張するものはない。

スクールバスの中で物珍しそうに僕を眺める無数の視線に耐え、女の子の派手な化粧や刺激的な服装に圧倒されながら、僕はホストブラザーに先導されて American Government(アメリカ政治)が専門の担任の先生に面会した。

彼は眉の濃い肥った陽気な先生で、僕の緊張は一気に吹き飛んだが、朝礼のアナウンスがスピーカーから流れて来た時には一瞬何が起こったか理解できなかった。それまでガヤガヤと雑談していた生徒たちが一斉に立ち上がり、胸に手を当てて、あるフレーズの唱和を始めたのだ。

I pledge allegiance to the Flag of the United States of America, and to the Republic for which it stands, one Nation under God, indivisible, with liberty and justice for all.

実際は、フレーズごとに若干ポーズを入れながらリズミカルに唱和する。こんな感じだ。(区切りに「/」を入れてみた)

I pledge / allegiance / to the Flag / of the United States / of America, / and to the Republic / for which it stands, / one Nation / under God, / indivisible, / with liberty / and justice / for all.

僕は困惑した。自分は日本人だ。アメリカ合衆国に忠誠を誓うわけにはいかない。

ここはひとつ日本に対する愛国精神を表現したいところだが、残念ながら君が代などを歌う場面でもないし、日本人はバンザ~イ以外、適当な唱和フレーズを持っていないことに気がついた。般若心経を唱えるのもおかしいだろう。

結局僕は、礼儀として起立はしたが、終始うつむいたまま無言でいた。

僕は、自由と正義を唱えたこのような理念を持つアメリカ人が少し羨ましかった。特に、最後の “one nation under God, indivisible with liberty and justice for all” というのは秀逸なフレーズだ・・・

アメリカで感心するのは、愛国心の強さだ。

愛国者によって支えられているのはどの国でも同じだろうが、アメリカの場合、それが日常の慣習の中でよりストレートに出る。200年の開拓の歴史がそういう風土を創り上げたのではないかと思う。

例えばフットボールの試合が始まる前、観客席の全員が起立してアメリカ国家を熱唱する。特にオジサン・オバサン連中の熱の入れようが素晴らしく、その声量と声域には驚嘆させられる。

歌声はゴ~っというような大音響となってスタジアム全体を揺さぶり、強大なエネルギーをほとばしりながら選手たちと観客を包み込む。この国は強靭な意志によって一致団結しているんだ・・・ そんな印象を抱く瞬間だ。