まるで読書感想文みたいなタイトルですが、Kindle書籍「Molly’s Game」を読み終えたので、感想を書き留めておきたいと思います。

ひと言、超面白かったです!

軽快な文体で英語もシンプルな上、ため息が出るようなセレブたちのゴージャスな世界を垣間見ることができて、どんどん先に読み進めます。

最も記憶に残っているのは、Chapter 23 後半のこの場面です。「スパイダーマン」役の俳優、あのトビー・マグワイアが、モリーにこう言います:

Tobey: “I think the game needs restructuring.”(ゲームのやり方を見直した方がいいね。)
Molly: “How so?”(どうして?)
Tobey: “Well, you make too much and it takes too long to get paid.”(君の稼ぎが多すぎるし、換金に時間がかかり過ぎている。)

I raised my eyebrows. In what other universe do you show up, play a game, win a MILLION DOLLARS, and get the check within a week?(私は、眉を釣り上げた。言われた場所に来て、ポーカーのゲームを楽しんで、1億円稼いで、翌週に小切手を受け取れる世界が、他にどこにあると言うの・・・?)

※ この最後の文章・・・ とても英語的でいいですよね〜 口語では誇張した表現を使うことが多いのですが、”In what other universe” という誇張表現を最初に持ってきて、倒置法の疑問文で記述するあたり、読んでいても気持ちがいいです!

トビーが実名で頻繁に登場するのもビックリなのですが、彼はハイリスク・ポーカーの常連だったようです。モリーにとって上客だったはずの彼が、この会話をきっかけに、モリーがLAで築き上げてきたセレブ御用達のゲーム運営権を奪おうとします。

モリーが仕切っていたゲームは、ハリウッド・セレブたちの間で大人気でした。

最高級のホテルのスイートを借り、絶世の美女を何人も雇い、プレイヤーのドリンクや食べ物の好みを調べ尽くし、彼らの要求には雑用であろうと何でも応え、翌週には勝者に小切手が支払われる。そしてこのゲームに参加できるのは、モリーがスマホで招待メッセージを送ったセレブのみ。潤沢な資金や収入源があり「金払いがいい」プレイヤーのみを厳選してゲームに招待します。

モリーは大金持ちのクライアントに、こうした至れり尽くせりの極上サービスを提供することで、クライアントをその環境に中毒にしてしまうのです。そして次回そのゲームに招待してもらうには、毎回モリーに高額なチップを支払わなければならない・・・

アメリカの法律では、参加費を取ったり掛け金の一部を手数料として徴収したりすると賭博運営者としてみなされ、どうやら取り締まりの対象になるようです。ところがモリーは単に場所を提供するだけで、自分の収入は参加者の善意による「チップ」のみ。かなりグレーではあるが違法ではないのです。

そして掛け金はしばしば数億円にまで膨らむので、チップの額も半端ではなかったようです。モリーの手元には一晩で数百万円のチップが集まり、彼女はそれをもとに、週一回だったのを二回に増やし、より金持ちで金払いの良い優良顧客に絞り込んで行きます。

ただし貸金業もそうなのですが、こういったビジネスの一番の悩みどころは「回収」です。ゲームの最中に現金をやりとりする訳にはいきませんから、モリーは各ゲームの勝敗を綿密に記録し、それを元に翌日から参加者の自宅を回って、敗者から回収し勝者に支払います。実はこれが大変な作業で、例えば数千万円負けたプレイヤーが支払いを拒んだ途端、勝者に支払う資金が無くなってビジネスは破綻します。

掛け金が半端ではありませんから、自分の手元にある程度の現金をプールしておいても、一回の不良債権が発生しただけで即倒産です。一晩で数百万を稼ぐモリーも、実はそのリスクに毎日怯えながら、次のゲームに向けて完璧に首尾を整える毎日を繰り返していました。

債権回収を「怖いお兄さん」に業務委託するのが世の常ですが、聡明なモリーは、決してその世界に手を染めませんでした。その代わり、クライアントを厳選することに徹したのです。巨額の安定収入があり、でも日常に退屈していてハイリスク・ポーカーの世界に魅せられ、惜しみなく大金を賭ける。でもポーカーが下手でいつも負ける。それでも他に収入があるので、ちゃんと負け金は払ってくれる。そんな「安全な」クライアントです。

つまりモリーの顧客リストは、超優良顧客の黄金リストでした。当然、そのリストを狙って策略者たちがモリーに群がります。そして上記の会話をきっかけとして、モリーはLAでのゲーム権を突如、トビーとその共謀者に奪い去られます。

ただその後がモリーの凄いところです。LAで何も出来なくなった状況に屈せず、ニューヨークに飛んで、そこで同じビジネスモデルを築き上げるのです。ターゲットはウォールストリートの富豪たち。暗い地下室というイメージがあった従来のアンダーグラウンド・ポーカーに代わる、全く新しいゲームの場を提供するのです。

LA時代の人脈からNYの優良クライアントにコンタクトし、最高級のペントハウスを借り、LAから美女たちを呼び寄せ、煌びやかな極上のセレブ空間を演出します。毎日がストレス漬けのトレーダーたちは、そんな環境に虜になってハマり、中毒になりました。モリーのビジネスも、LA時代に増して順風満帆に思えました。

ところがここはニューヨーク。美味しく稼ぐ人には、それを狙った悪魔の手が忍び寄ります・・・

この先は、ぜひ原作を読んでください。

青春時代に致命的な背骨の手術を乗り越え、スキーのモーグルで全米トップ3にまで上り詰めた不屈の精神を持つモリーの、ビジネス世界におけるドラマチックな挑戦の記録です。

アマゾンで、僅か 660円 です ⇒ Molly’s Game

お楽しみあれ!