Steamboat で春スキーを満喫した僕たちは、再びデンバーに寄ってベスを拾った。明後日からは春学期が始まる。往路と同じようにぶっ続けの交代運転で、僕たちは帰路を急いだ。

春学期が始まって2週間すると、友人のデクスターが僕に頼みがあると言ってきた。イースターで週末だけ実家に帰りたいので、クルマを貸してくれないかとの相談だった。飛行機は高いので、同じNY出身の友人たち数人とクルマをシェアして安く上げたいそうだ。

The door is a bit loose on the passenger side.  Is that OK?

助手席側のドアが閉まりづらくなっている点を指摘した上で、僕は依頼を承諾した。

週明けの朝、カフェテリアでデクスターに会うと、彼は浮かない顔で僕に打ち明けた。

Suchan… I left your car in NY.

What?  You LEFT my car… where?  Why???

何? クルマをNYに置いてきた?

なんでもニューヨーク到着後にガソリンスタンドで給油をした際、店員にシャーシーのサビを指摘されたとか。で、「この状態でハイウェイを運転したら空中分解する」と言われ、そのまま置いてきたそうだ。

冗談じゃない、必死でアルバイトをして貯めた金でやっと買った150ドルの車だ。せめて40ドルもした新品のバッテリーだけでも持ち帰って欲しかった。

彼は責任を感じたのか、「お詫び」として僕に40ドルを差し出した。少し気が引けたが、妥当な額だろうと、僕は受け取った。

ところが、彼と一緒にニューヨークに帰省した女学生たちからは、ごうごうの非難を浴びた。

How could you receive money from him?  Because of your damn broken car, we had to buy expensive air tickets on the way back.  We’re all broke now.  We could ask for the compensation!

(彼からお金を受け取るなんて何と言う神経をしているの? 私たちはあなたのボロ車のせいで、帰路は止む無く飛行機よ。もう財布はスッカラカン。こちらが損害賠償を請求したいぐらいだわ!)

というのが彼女たちの言い分だったが、ボロ車かどうかは余計なお世話だ。借りたいと言ったのはそっちだし、それで帰省するのは自己責任だろう。こちらは友人の頼みをきいたばかりに大切な車が無くなった。キャンパスで静かに乗っていれば、まだまだ使えたはずだ。

とにかく車が無くなったという事実は、僕の生活と自尊心に大きなインパクトを与えた。ちょっとした買い物でタウンに行くのも不便になり、得意げに友人たちを送り迎えしていたのができなくなった。いったん贅沢を味わったら、なかなか元には戻れないものだ。

僕は再び、猛然とアルバイトに精を出した。