翌朝は快晴だった。ロッジ周りの雪は朝日を受けて溶け始め、エントランス前に大きな水たまりを作っていた。スキー場までは歩いて行ける。僕たちははやる心を抑えながらリフト券売り場でワンデイ・パスのチケットを買い、山の頂上を目指した。

この年は例年より極端に雪が少なかったようで、方々で地肌が顔を出している。3月の終わりなので、もう春スキーだ。ふもとのロープウェイ乗り場では、ザラメ雪に反射した日差しがまぶしい。

山頂駅でロープウェイを降りた僕たちは、辺りを包む心地よい冷気と澄み切った青空に歓声を上げた。晴天に輝く、真っ白な銀世界だ。そこからさらにリフトを一本上がって、僕たちは山の頂上に着いた。

さあ、スタートだ。周りには誰もいない。広大な斜面を独り占め・・・ 何という贅沢だろう!

僕はスキー教室で会得したウェーデルンを披露しながら、これ見よがしにと華麗に斜面を滑り降りた。全くの初心者だった僕が、僅か3ヶ月で、しかもたった10回のレッスンで、上級者の証と言われるウェーデルンをマスターし、どんな斜面も自由自在に滑れるようになるとは、我ながら驚いた。デニスはそんな僕の滑りに嫉妬したかのように、何度も助言を求めてきた。

Suchan, how would I be able to ski like you?

アドバイスなんかできっこない。GLM 方式では、抜重で方向転換を行うのが基本だ。その軽やかで派手なスタイルは、まるで斜面を舞っているようにも見える。長いスキーで、いきなりこれを習得するのは不可能だ。

シャッ・シャッ・シャッ・・・ 雪を左右に蹴り上げるような感覚で、僕は一直線に斜面を下った。上体は下を向いたまま安定している。マイスキーの K2 は思った通り軽く強靱で、左右のエッジ加重にしなやかに反発してくれる。スキーがその弾力で、斜面を切り開きながら僕をガイドしてくれるような感じだ。

快晴の午前中はあっという間に過ぎた。僕たちはふもとのロープウェイ乗り場近くに場所を確保し、春の陽差しをたっぷりと浴びながら遅めのランチをとった。持参した Peanut Butter and Jelly Sandwich が格別に美味しかった。

午後も夢中に滑った。狭く長く続く尾根のコース、北向きのアイスバーン、コブだらけの急斜面・・・

どれほど滑ったろうか。いつの間にか僕はデニスを置き去りにして、山の反対側のふもと近くまで滑り降りていた。

辺りには夕闇が迫っている。今日はこれで終わりにしよう。デニスは多分、もう宿に戻っているだろう。この丘の上まで登り、反対側に滑り降りればロッジまで歩いていける。幸い、リフトはまだ動いている。

僕はリフトに飛び乗った。乗車口には誰もいなかったが、フリーパスのチケットだから問題はない。疲れた両足を休めながら、紺色に染まり始めた空を眺めてひと息ついていたその時、リフトが突然、止まった。