翌朝、全員がひどい頭痛と吐き気に襲われた。高山病とまではいかないが、眠っている間はまだ高度に慣れていない身体が通常のペースで呼吸するため、酸素不足となってしまうからだ。

リーダーのダグがしきりに「動け」と指示している。運動をすることによって呼吸ペースを上げ酸素を取り込むと同時に、身体にペースを覚えこませるためだ。付近を30分ほど歩き回っているうちに頭痛は消え、吐き気も無くなった。

海抜 5,500 メートルでの大気圧や酸素分圧は、海抜0メートルの半分となる。今回の登頂目標 Mt. Popocatapetel は海抜 5,450 メートルで、高度順応せずに山頂にいきなりチャレンジすると、ほぼ例外なく高山病にかかる。重度の高山病は緊急手当てが必要となり、下山を余儀なくされる。

従って最初の1週間は、身体を高度に慣れさせるための訓練で、とにかく毎日、朝から暗くなるまで、重いバックパックをしょって歩き回った。毎日20マイル、つまり32キロが一応の目標だった。

薄い空気に身体を順応させるのが目的なので、一定のペースを保ったまま、毎日ひたすら歩き続ける。昼間はギラギラ照りつける陽射しで、上半身裸になっても暑いくらいだが、夜になると急に冷え込む。ダウンジャケットと寝袋は必須だ。そのため夕方にはハイキングを終え、キャンプに戻って夕食の準備をする。

重い荷物を背負ってのハイキングは相当辛かったが、リーダーのダグは常に全員の様子を観察しながら、休憩のタイミングと長さをうまく調整しているようだった。そのせいか、脱落者はひとりもいなかった。