僕の留学先は、オハイオ州のシンシナティから30マイルほど離れたところにある田舎町だった。

この留学制度は文化交流を目的としているため、意図的に留学生をアメリカ人しかいない小さな町に滞在させる。もちろん日本人などどこにもおらず、皆はじろじろと珍しそうに僕を眺めた。

留学費用はコミュニティの募金で賄うため、留学生はコミュニティに貢献する義務 がある。その代表的な活動がスピーチで、到着後3ヶ月ぐらいして何とか英語に慣 れてきた頃から地元の教会などに招待され、日本文化についてスピーチを行う頻度がどんどん増えていった。

最初は大きなプレッシャーだったが、聴衆の大半は年配のおばさんたちで、僕の話に笑顔で耳を傾けてくれ、積極的に質問してくれた。

“Do you have a Christmas in Japan?”(日本ではクリスマスがあるのですか?)
“Of course, we all celebrate Christmas.”(もちろん、皆で祝います)
“But aren’t you a Buddhist?”(でも仏教徒ではないのですか?)
“Oh well…”(え〜っと・・・)
“So tell me how you celebrate a Buddhism wedding in Japan…”(仏教の結婚式 はどうやるのか教えてください・・・)

そんな具合で、彼女たちは通常、はっきりとした発音でゆっくり英語を話すので、僕にとっては絶好の英語トレーニングの場だった。

自分の意見よりも事実を話すのは容易なので、とてもいい会話の練習にはなったが、自分が、日本の文化、とりわけ冠婚葬祭などについて、全く無知だったことを痛感し恥ずかしく思うことも多々あった。