僕の前任者、つまり同じ留学制度によってこの田舎町に「派遣」された高校生は、ウェールズ(イングランド王国の一部)の出身だった。

彼は、同じ英語+イギリスアクセントという圧倒的アドバンテージのせいもあったが、僕のホストマザーによれば、“Very mature and sociable.”(非常に大人っぽく社交的)だったそうだ。

17歳なのに極めて成熟した考え方を身に付け、ホストファミリーには一人前の大人として接し、文化交流の大使としてコミュニティーに貢献した。写真を見る限り35歳と言っても疑われないぐらいの風貌で、彼のガールフレンドだった女の子は、それこそハリウッドスター並みの容姿と雰囲気と言動を持ち合わせていた。

あるホームパーティーで、セクシーな衣装に化粧バリバリの彼女と話しをする機会があり、自己紹介しながら前任者のことをいろいろ聞き出そうとした。

彼女は妖しい色香を漂わせながら、“So you’re from Japan…”「あなたが日本から来た男の子ね・・・」と言ったきりで、僕を値踏みするかのような表情で思わせぶりな笑みを浮かべている。ホームパーティーに集まってくる近所のオバサン連中ならば、珍しい日本人に大騒ぎ、社交辞令もあるだろうが僕にありったけの質問をしてくる場面だ。

ところが彼女の場合は、気の利いた台詞を待っているかのようにチラチラと周りを見ながら微笑んでいるだけ。たくさんの男友達がすれ違いながら彼女に声をかけていくと、“Hey Jack! How’s it going?” といった具合に親しげに応える。

僕はその妖艶な風貌に圧倒されながら必死で話題を探すが、全く会話が続かない。まるで馬鹿にされているように感じた僕は、気まずい雰囲気の中、そこそこに退散した。

ウィットに富んだ大人の会話やクセのあるジョークなどに慣れきった彼女は、言葉も不自由な東洋のガキをまったくもって相手にしてくれなかったというわけだ。