僕のホストファミリーはドイツ系の家族で、高校3年生と2年生の男の子が一人ずつ、 1年生の女の子が一人という、理想的な家族構成だった。お父さんは大企業の副社長、お母さんは専業主婦で、英語がまだよく聞き取れない僕に明瞭な発音でゆっくりと話しかけてくれた。

家にはプールがあり、毎週末、友人たちを集めてホームパーティーが開催された。パーティーに集まる年配のご夫婦たちはいずれも初めて見る東洋人に興味津々で、まだ満足に英語を聞き取れない僕に、ゆっくりとした明瞭な中西部の発音で、ありとあらゆる質問を浴びせかけた。

3人の子供たちのうち、男の子は二人とも飛行機の操縦免許を取得しており、月に1 度は近くの飛行場でセスナ機の操縦を楽しんでいた。お兄さんの方が僕のホストブラザーで、高校で悪い連中から守ってくれたり素敵なガールフレンドを見つけてくれたりする役割を担うはずだったが、それは甘い期待だったことが後でわかった。

彼はクールエイド(Kool-Aid)という粉末ジュース中毒で、毎日のように “Would you like some Kool-Aid?” 「クールエイド飲むかい?」と言って僕に勧めた。そのせいか彼のお腹はタヌキのように出っ張り、分厚い眼鏡も手伝って学校では変人扱いされ、女の子にはさっぱり人気がなかった。

弟さんは非常に頭が切れたが、親兄弟や高校の同級生たちを完全に馬鹿にしており、僕も初日から彼の「頭脳テスト」であるチェスに毎日突き合わされることになっ た。 “Would you like to play a game of chess?” 「チェスやらないかい?」という のが彼の口癖で、巧妙な指し手に対抗しようと長考する僕を眺めるのが大好きだったようだ。

妹さんは、赤毛の髪に劣等感を抱いていたせいか非常にシャイで、僕に対しては遠慮がちに顔を真っ赤にしながら話しかけてきた。一方で、親にはいつも反抗し、兄ふたりには凄まじい形相で常に悪態をついていた。とても裕福で恵まれた家庭なのに、絶えず不平・不満・悪態が飛び交うこの家族はいったい何なんだ・・・?

言葉も文化も境遇も違う全く異なる家族に「編入」してきた僕にとって、この現実は実に不可解で、大きなショックだった。